「……なんなんだよ、あいつ」

リビングに入ると夏生は苛立たしげに唇を咬んだ。

「しずく、あいつとどういう関係?」

「……どういう関係って。同期だよ」

「何してたんだよ、今まであいつと」

「あいつあいつって言わないでよ! 加地くんだよ!」

「だからどこで何してたんだよ!?」

夏生が大きな声を出した。

自分だって、女の人と会っていたくせに。
私が加地くんといるのは気に入らないなんて、ただのわがままだ。

夏生を睨み付けて私も負けじと大声を出す。

「言いたくない! 私だって夏生が誰と会っていたって文句言わないんだから、夏生だって、私がなにしたってほうっておいてよ!」

「なんだよ、それ」

夏生は、はぁとため息をついてソファに座り込むと左手で頭を抱えた。

「……意味わかんないんだけど」

「別にわかってくれなくていいよ。だけど、嘘はよくないと思う」

「嘘ってなんだよ」

「誰かと会うならそう言えばいいじゃない! 私は夏生がどこで誰となにしてたって怒ったりしないよ。だって、私たちほんとの恋人じゃないもん。だから、私のことだってほうっておいてよ! 夏生にとやかくいわれる筋合いないよ!」

夏生は頭を抱えたまま、顔を上げなかった。

「……そうか。そうだよな。俺たち、本当の恋人じゃないもんな」

悪かったよ、と夏生は小さな声で言った。

「でも、俺はしずくを泣かせるようなことはしてない」

「……もういい! 私、自分のうちに帰る!」

思わず叫んでいた。
アルコールの力も加わって、気持ちがぐちゃぐちゃになる。

「もうやだ! もう帰る! 夏生と一緒に暮らすなんてもう無理! 夏生なんてだいっきらい!」

もう自分でもわけがわからない。

どうしてこんなに悲しいのか。
どうしてこんなに悔しいのか。

私はどうしたいのか。

自分でもわからない。