「ただいま」

その日の仕事を終えて帰ってくると、リビングから出てきた夏生が、私を見て優しい顔で微笑んだ。

「おかえり、しずく。鍋にしたよ」

私は思わず歓声をあげた。
だって、今日はとてもお鍋が食べたい気分だったから。

「なんのお鍋?」

マフラーを外しながら聞くと、夏生は振り向いて「味噌」と答える。

「最高!」

「だろ?」

夏生は得意気に言った。
それから、私に近づいてきてキスをすると、コートの上からぎゅっと抱き締める。
夏生のホワイトムスクと、部屋中に広がるお鍋の幸福な香りが私を包んだ。

「会いたかった」

私の首筋に顔をうずめて、耳元で夏生が言う。

「昼間、会ったよ」

私はくすぐったくて、くすくすと笑う。
私も会いたかった、と言えない私は本当にかわいくないと思いながら。

「……冷たいなぁ」

夏生は私を抱き締めたまま、私の耳たぶを触ると「素直じゃないんだから、しずくは」と、拗ねた声で言った。

「ま、いいや。早くご飯食べて、シャワーして、ふたりでベッドに入ろう。かわいがってあげるから」

夏生は気絶しそうなほど、セクシーな声で囁いた。

「俺のかわいいハムスターちゃん」








end