無口な彼

「ねぇやっぱかっこいいよね」

「この学園でダントツでしょ?」

「運動神経も抜群らしいよ」

「「さすがだねーー」」

入学してから数日経って気づいたこと。

それは女子ほとんどがあたし付近を見ながらこそこそ何かを言っていること。

いや、その何かは丸聞こえなんですけどね。

……ま、おそらく言われているのはあたしの隣で寝てる人。

名前は確か……。

あれ、なんだっけ??

やっぱ人の名前と顔覚えるの苦手だなーー。

でも確かに初めて見たときは、純粋にかっこいい、って思った。

ま、だからなんだ、って感じだけど。

「朱里ー!おはよ!」

ぼーっと考え事をしてたら美紅がきた。

入学式から毎日一緒に登校してるのだけど。

「おはよ!美紅の寝坊癖はいつになったらなおるんですかねー?」

そう、今日は美紅の寝坊癖が発動してあたしが先に来た。

「ごめんね!……で、さっきから王子のこと見ながらなにを考えていたのかな?」

と、ニヤニヤしながら聞いてくる。


けど。


「王子……?誰のこと?」


…ここは日本だよ?

王子なんているわけないじゃん。

美紅まだ夢の中にいるのかな?

「……………は?」

大分間が空いてやっと出た言葉。

……いやいや。

こっちがは?だよ。

「え、朱里。王子知らないの?」

「……美紅?いい加減目覚ましたら?ここは日本だよ?」

首相ならわかるけど。

あ、もしかして首相のお子さんのことかな?

「はぁーーーー」


……なんでため息?

頭大丈夫かな?

「いい?王子っていうのは……」

そうして頼んでもないのに事細かに王子に説明をする美紅さん。

滝川 悠斗。
あたしの席の隣の人。
この間から騒がれてる人。
新入生代表挨拶をして以来有名になったらしい。
ただ話しかけても基本無視なので付いたあだ名がクール王子。


「わかった?」

「うん、わかった。一応覚えとく」

そのタイミングで先生が教室に入ってきて美紅は自分の席に戻っていった。