「もう、なんで私が見に行かなきゃいけないのよ〜。子供じゃないんだから、体調悪かったら自分で病院行きゃあいいのよ、病院」
なんてことをブツクサ言いながら写真館の建物を出て、舞は向かいに立っているアパートの1階、102号室の光俊の部屋のドアの前にやって来た。
「…」
ドアの前に立って、呼び鈴に手を伸ばしたが、思わず押すのをためらった。もしや、気分悪くて寝ていたら、わざわざ起こす必要ないんじゃないだろうか?との考えが頭を過ったからだ。
「どうしようかなぁ…」
しかめっ面でドアの前に立っていると、カツンコツンとこの辺りでは聞かないヒールの音が近づいてきたのに気づいて、音の方を振り返った。
「…あ」
見覚えのある女性が近づいてきて、101号室の前で止まった。
「こん、ばん、は…」
舞は、その見覚えのある女性に恐る恐る声を掛け、小さく会釈した。
「あ、こんばんは」
思いがけず声を掛けられ、女性も反射的に挨拶を返してから、相手が舞であると気づいたようだ。
「桃子さん…ですよね?」
「はい。バレーではお世話になりました」
「こちらこそ」
やって来たのは、あの桃子だった。そして、舞の目に、桃子が持っているエコバッグからゴボウが見えているのが留まった。その舞の視線に気づいた桃子は少しバッグを体で隠すように持ち替えた。
何となく気まずい舞は急いで102号室の呼び鈴を連打。
ピンポン!ピンポン!ピンポン!
「はい…」
力のない光俊の声と共にドアが少し開くと、舞はガッ!と引き開けて、
「じゃあっ」
と、桃子に思いっきりの愛想笑いを残して、サッとドアの中に入ってバッとドアを閉めた。
「…あ〜、びっくりしたぁ」



