「母さんはそいつに捨てられたんじゃなかったか?」
俺はそう言われて育って来た。
死んだばーちゃんだってそうだ。
“大事なものを守れない大人になるんじゃない”って小さい頃から言われていた。
それって父親のことだろう?
「…生きているわ。捨てられたんじゃなくて、私が逃げたの。彼に迷惑かけることが目に見えてたから。いままで隠してごめんなさい。」
…何言ってんだ?
「…俺がいままで父親がいないって理由でどんだけ辛い想いをしたか、母さんは知ってんの?ウチには父親がいないから、母さんしかいないから、仕事を頑張ってくれている母さんを心配させたくなくて、母さんの前だけでも良い子でいようって思ってた…。」
ずっとずっと我慢してだんだ。
誰にも言えなくて、自分の中に閉じ込めて…。


![【特別版】愛しい君へ[完]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.759/img/book/genre99.png)