ぶつかった相手はクラスのお調子者の由仁(ゆに)だった
だがなぜか今日はトランプ兵の被り物をしていた
不思議の国のアリスに出てきそうなトランプ兵の被り物だった

今日ってハロウィンかなんかだっけ?

そう思い、私は黒板の日付を見る
〈5月14日〉と白いチョークで書かれていた

さっきの子どもと言い、由仁といい、なんで被り物…?

「ご、ごめんね!怪我してない!?」
由仁は私に謝る

「ううん、大丈夫。こっちこそごめんね。もしかして急いでた?」

「急いでいたと言われればそうだけど…と、そうだ!」
由仁は何かを思い出したようだ

だがしかし私には聞きたいことがあった

「ねぇ、さっきこれくらいの小さい子どもとすれ違わなかった?」
そう言って私は自分の胸下あたりに手をかざした

「え?誰もいなかったよ?」

おかしいな、ついさっき出て行ったんだけど…
そう考える私をよそに、由仁は興奮した様子で私に話しかける

「ねぇ、聞いて!ビッグニュースがあるんだけど!」

「うん、でもさっき…………」

「聞いてよ!絶対驚くから!極秘情報なんだよ!」
由仁は楽しそうに話す

どうしよう…リスの子どもを追いかけようか…
由仁の話を聞こうか…

「…ごめん、ちょっと私用事があるから!」
そう言って私は廊下に飛び出した
しかし廊下の先には誰もいない
階段まで行って確認したが、やはり先程の子どもの姿は見当たらなかった

仕方なく教室に戻ると、由仁はまだ教室に残っていた

「何かあったの?」
由仁が不思議そうに聞く

「ああ…ううん、なんでもない」

「そう?で、ねぇねぇ!話を聞く気にはなった?」

「何があったの?」

「聞いて!私たちと同じクラスのチサがね…




___死体で見つかったんだって」

「死体…?」

「そう!西校舎の使われていなかった視聴覚室で!」

「千沙が…殺された?」

「学校で大事件が起きちゃったんだよ!」
何故由仁は嬉しそうなんだろうか

「……………………」

「……あれ?あんまり驚かないね?」

「そんなことないよ、凄く驚いてる」

「ほんと?ね、ビックニュースだったでしょ?私、他の子にも伝えないと!
 じゃあねフィーナ!」
………フィーナ??
待って、私の名前は…

「う、うん……じゃあね」

由仁はパタパタと慌ただしく教室から飛び出していった。教室に静寂が訪れる
再び1人になった教室で、私は呆然と立ち尽くす

「学校で…千沙が…殺された?」