マンションのエントランスホールからスウェット姿の辰次郎さんが慌てて出て来た。


「おい!何してるその手を離せ!!」


と辰次郎さんは凄みのある声で言うと稔の手を払い除けてくれた。


「あんた誰だよ関係ないだろ?」


稔が再び私の腕を掴もうとしたので辰次郎さんは私を抱き寄せ稔から離してくれた。

そして辰次郎さんは…

「彼女は今は俺の女なんだよ!一度捨てた女に慰めて貰おうなんて男として情けなくないか?とっととうせろ!二度と美貴野に近づくな!」と稔を睨みつける。


「冗談だろ?美貴野があんたのような親父を相手にするわけ無いだろ!」


そして稔は…


「美貴野…冗談だろ?……こんな親父の何処が良いんだよ?!」


稔は顔を歪めて聞く。


「今の稔よりずっと素敵だよ!」


勿論、辰次郎さんと付き合ってなど居ない。

でも、今は辰次郎さんの嘘に助けてもらう事にした。


「チッ!そぅかよ?!…」


稔は言うと持っていた袋を道端に投げ捨て暗闇の中に消えていった。

辰次郎さんは「ゴミを捨てるんじゃねぇよ」と小さな声で言い拾い上げた。