電車を降りると駅前のコンビニでお弁当と缶ビールを買う。
去年の誕生日もこのコンビニで同じ買い物をしたっけ?とコンビニを出て苦笑いをする。

マンションの前まで帰ってくると暗闇の中から人影が私に近づいてくる。

私は警戒しながら足早にマンションのエントランスに入ろうとしたらマンションの入り口の灯りでその人影の顔がはっきり見えた。

えっどうして?……

なんとその人影は稔だった。

そしてその稔の姿は見るも無惨な姿…スーツは着ていても何日も家に帰っていないようで心身共に疲れきっている様に見えた。


「美貴野、遅かったな?」


「えっ?」


「社を出たの19時じゃん2時間も何してた?」


私は、社を出たあと数店舗の書店を回って来ていたのだ。

どうして私が社を出た時間を知ってるの?



それより…



「どうして私の家を知ってるの?」


別れた頃はまだ自家暮らしだった。

引っ越しをした事は稔には教えていない。

だから結婚式の招待状も転送されて来たのだから…


「そんなの総務ならすぐ分かるし」


嘘?!

そりゃー総務なら分かるだろうけどわざわざ調べたの?


「……」


「なぁこんな所で話も何だし美貴野の部屋に入れてくれないか?今日誕生日だろ?美貴野の好きな苺のショートケーキ買って来たからさ二人でお祝いしよう」


稔は手に持っていた紙袋を顔の高さまで上げて見せた。

それは私が好きな社の近くの【アマンド】の物だった。

一昨年迄は互いの誕生日には【アマンド】のケーキを買ってふたりでお祝いして居た。

去年は一人寂しくコンビニのケーキを買ってひとりで『コンビニのケーキも結構美味しいじゃん』と食べた。

「…それは…出来ない…」と私は稔から目を逸らさずはっきり言う。


稔は一歩近寄り「なんで?」と聞く。


「私達は別れたんだよ?」


「あの時は俺が悪かった…後悔してるんだ…もう一度やり直さないか?俺には美貴野が必要なんだ!頼む俺を見捨てないでくれ!」


稔はまた一歩と近寄り私の両腕を掴み懇願する。

お酒臭い…

稔は随分飲んでいるようで目が据わっている。

怖い…
こんな稔見たこと無い…


「嫌!稔やめて離して!!」


「美貴野、頼むよ!」


稔の手には更に力が入る。


「痛い!!稔、お願い離してよ!!」


私は稔の腕を振り払おうとするけど、力の差では負けてしまう。