すべての原稿チェックも終わり「よし!仁美ちゃん印刷に回して!」と原稿の入ったUSBを差し出す。

「はい!」

今月もなんとか締め切りに間に合うことが出来た。

時計を見ると午前4時を回っていた。

何人ものスタッフが簡易ベットや机に伏せて寝ている。

宏海も部のソファーで眠って居た。


「宏海!私、一度帰るよ!あんたも帰ったら?」


「う…ん…お疲れ…」


宏海は返事はしたものの夢の中のようだ。

締め切り日はいつもの光景だが、これでは宏海も結婚出来ないよね…

私も人の事言えないけど…

私は着替えに一度家に帰り少し仮眠を取る事にした。


1時間ほど仮眠を取りシャワーを浴びると今日は編集長会議があるので早めを家を出た。


マンションの1階にカフェ花水木がある。

カフェ花水木はこのマンションのオーナー美寿々ちゃんが営んでいる。

コーヒー好きの私は出勤する前に良く寄るのだ。

今日は仕事帰りの辰次郎さんとお店の前で顔を合わせ一緒にお店に入った。

「いらっしゃいませ」

いつもと変わらず美寿々ちゃんは笑顔で迎えてくれる。

「おはよう…」

「おはようございます。あれ美貴野さん早いですね会議ですか?」と元気な美寿々ちゃんが聞く。

「そう…」


私の後ろから入って来た辰次郎さんに美寿々ちゃんが声をかける。


「ミチルさんお帰りなさい」


「ただいまコーヒーね」と辰次郎さんはコーヒーを注文する。


「美貴野さんなんか元気ないですね?」と美寿々ちゃんが心配て声をかけてくれる。


「美寿々ちゃんコーヒーテイクアウトで濃いのね?」と私は美寿々ちゃんに水筒を渡す。


「朝方まで仕事してたの…眠たい…ふあーぁ…会議寝ちゃいそう」と大きなあくびがでる。


「あらー徹夜なんてしたの?若くないんだから気をつけなさい。お肌荒れてるわよ」


辰次郎さんは私の頬を触って哀れむように言う。


「うるさい!辰次郎もヒゲ生えてるわよ!」と辰次郎さんの手を払いのけ睨みつける。


「辰次郎って言わないでよ!私はミチルよ!あんたいい加減覚えなさいよ!」


辰次郎さんは口のまわりを両手で覆って怒ったように言う。

「杉下辰次郎って素敵な名前じゃない?渋いおじさんって感じアハハ」


私は大きな口を開けて笑う。

そんな辰次郎さんとの掛け合いは眠気を飛ばしてくれる。


「美貴野さん朝ご飯食べました?」


美寿々ちゃんの問いかけに私は小さく首を振る。


「ちょっと待って下さいね?」


美寿々ちゃんは自分用に作っていたであろうクロワッサンのサンドイッチを包んで紙袋に入れ差し出してくれる。


「はい、美貴野さんサンドイッチ持って行って下さい。食事はちゃんと取らないとダメですよ?」


「美寿々ちゃん私より年下なのにお母さんみたい…ありがとう。あっ時間だ行かなきゃ」


「いってらっしゃい」


美寿々ちゃんはいつも常連さんを『いってらっしゃい』と送り出し『お帰りなさい』と迎えてくれる。


それは私達独身には家族に言われてるみたいで元気が出るのだ。


「行って来ます」