社の近くのカフェに入ると稔は真面目な顔をして話し出した。


「俺、来月から本社に戻る事になった…」


「そうなんだ?おめでとう!あっ子供ってどっちだったの?」


2ヶ月って言ったらかわいい頃だろうな?


「向こうだった…」


「はっ?向こうって?男の子か女の子かって…えっ?」


「美貴野も噂聞いてるんだろ?子供が俺の子じゃないって話…」


えっ?向こうって…


「えっ…だってそれは僻んだ誰かが流した、ただの噂でしょ?」


稔は顔色ひとつ変えずに淡々と話していた。


「彼女はA型で子供はB型だった…」


稔は確かA型だったよね?
それって…


「噂になってたけど…彼女も違うって言うし俺の子だって信じてた…でも…違ったんだ…相手は取引先の妻子持ちで、俺と付き合いだしてからも続いていたらしい…」


「そんな…で、どうするの?」


「別れる事にした…騙されててこのまま子供を自分の子として育てられないよ」


確かに…


「彼女の親が会社(うち)の上の人と知り合いでさぁこの事を聞いて移動の話になったんだ…大阪じゃやり辛いだろ?って…」


「そうなんだ?…で、どの編集部に移動なの?」


「総務」


「えっーなんで総務なの!?どうして編集の仕事じゃないの!? 3年したら戻ってこれるって話だったじゃない!総務なんて話が違うじゃない!!」


入社して編集一筋だった稔がどうして総務なの?


「実は俺大阪であまり良い結果出せなくて…彼女と付き合い出したのも彼女が慰めてくれた事からなんだ…美貴野には悪い事したけど…でも美貴野には弱音を吐けなかったんだ、弱い自分を見せたくなかった…同じ編集の仕事をしてる美貴野には男のプライドかな?…」


「……」


私は稔の安らげる場所じゃ無かったって事だよね…

私はいつも自分の事ばかりで稔に甘えてた。

ごめんね…

私がもう少し稔を気に掛けてあげていたらこんな事にはならなかったかもしれない…


「結果の出せてない俺が戻って来ても居場所は無いって事かな?…」


「稔…」


「これも美貴野を裏切った罰かもな?忙しいのに随分時間取らせたな?じゃおれ電車の時間があるから行くわ」


「う…うん、気をつけてね…」