ツケマお化けに恋して

電車を降りると駅前の雑居ビルが目に入った。

この駅に降りるようになって半年、初めて見上げるビル。

今までこんな余裕もなかった…



半年前…


突然部長に会議室に呼ばれなんの話かと緊張している私に部長は「そんなに緊張するな、まぁ座れ」と笑って言う。

緊張するなと言われても……私、何かしただろうか?

でも部長の顔を見れば怒られるってわけでも無さそうだが……


「鈴木、春に美容雑誌を新しく出す事になった。おまえやってみる気あるか?」


本来編集長には副編集長を経てからか、よほどの経験実績が有る人が選ばれる。

まだ10年そこそこの私が実績だって胸を張れるほどのものはない……そんな私に……


「えっ?私ですか?」と驚く私に部長は話を続ける。


「石田が鈴木にやらせてくれないかと言って来た。俺もお前なら出来ると思うが?どうする?」


石田さんは第二編集部ファッション雑誌【LUNE SOLEIL】の編集長で私を1から育ててくれた人だ。


「石田さんが?」


「本来副編集長の中から選ぶんだが、今回は異例中の異例だ!だから他からの風当たりも強いと思う。それなりの成績を出さなくちゃいかんから大変な事は確かだ。だが、あの石田に面と向かって妥協はしたくないと言ってるお前の仕事を俺も見て来ている。だから、上に胸を張ってお前を推薦出来る!」


部長が私の事をこんなにも評価してくれていたなんて…嬉しくて目頭が熱くなる。

こんなチャンスは二度とないかもしれない。

部長や石田さんがくれたこのチャンスを無駄にはしたくない。

私は活きよい良く立ち上がり真っ直ぐ部長を見る。

そして『やらせて下さい!お願いします』と頭を下げた。

部長は新しいチームの人選からすべて私に任せてくれた。

私は第一編集部メンズ雑誌【uomo】に居た同期の宏海を副編集長に選び二人三脚で始まった。

【La lune】“Luna”は《ローマ神話》ルナ(月の女神)そして“ La lune”は月に頼む、不可能なことを頼む。そう月に永遠の美を願うという事で【La lune】と名付けた。