でも。
純粋に音楽を味わいたいのに。
頭の隅では、別のことを考えてしまう。
服が半袖だから、演奏会では見えなかった腕が見える。
筋肉が動いているのがわかる。
さっき、私を抱きしめた腕。
私を翻弄した指。
感触がよみがえり、赤面する。
……反則だ。こんなの。
チャイコを見ている時は、恋かどうか分からなかったけれど。
今は、はっきりわかる。
第4曲のラスト、ロングトーンのフラジオレットの音が消えていく……。
三神くんが楽器を下ろした。
「ブラボー」
拍手。
三神くんは、にっこり笑いながらお辞儀をした。
「惚れた?」
「……惚れ直した」
「素直でよろしい」
満足気にうなづく。
「じゃ、約束通り、今夜は眠らせないってことで」
ああ。
これは、
完全に、
おちた。
スピードとか、
順番とか、
どうでもいいや。
この人に抱き締められたいと思っている私がいる。
