……やられた。
でも、逃げ場を塞がれてこういう追い詰め方をされると、恥ずかしさもあいまって反発したくなるのよ、可愛くないことに。
「ずっと、って、何よ。つい最近まで、壁があったじゃないの。まともに話したこともなかったでしょ⁉︎」
「だって、話すと好きになるの、わかってたから」
……え?
「初めて会った時から、ずっと憧れてたんだ」
はっ?
何て?
「採用面接や、内定式で会うたび、かっこいいなと思ってた」
どれだけ昔の話よ。
「新入社員の頃は、ここに、アザがあったよね」
すっ、と、三神くんの指が、私の左耳の下を撫でる。
官能的な仕草に、身体の奥がズキリと反応する。
「ヴァイオリン弾くコなんだなって、なんだか運命的なものを感じた。
同じ職場で働けるようになって、うれしかった。仕事ができて、気配りもできて、輝いていて、やっぱり第一印象に間違いはないと思った」
いや、買い被りすぎだから……。
「その時は綾乃には恋人がいたし、僕はオケで忙しかったし。話すと好きになるってわかってたから、近づかないでおこうって決めた。遠くで見てるだけでいいって思ってた。
だけど、綾乃が恋人と別れてから色んな男が言い寄ってるのを見て、冗談じゃないって思った。
忙しいとか、自分に言い訳するのはやめた。
ここは勝負どきだと思って、作戦を練ったよ」
……やっぱり腹黒い。
