「橘さんにそう言ってもらえて、すっごくうれしい」
三神くんはそう言うと、私の頭を撫でていた手をそっと肩に下ろし、自分へと引き寄せた。
抱き寄せられている……⁉︎
びっくりして、思わず、顔を覆っていた手をどけた。
目の前に、三神くんの、鎖骨のアザ。
全身で、三神くんの体温を感じる。
心臓がばくばくいいはじめる。
「演奏を聴いて泣いてもらえるって、ヴァイオリニストとして最高にうれしい」
三神くんが、私の顔を覗き込む。
嬉しそうに笑っていて……
でも、その笑顔は、爽やかとは言い難く……
「男としても、すっごくうれしい」
うわっ。
何、この色気を含んだ空気はっ。
雰囲気コントロール力、全開にしてる!
三神くんの体温と、密度を増す空気に包まれ、身体も顔も熱くなってくる。
「だって、シェヘラザード、橘さんを口説くつもりで弾いたんだ」
はっ? 何て?
「今日、僕の家に呼んだのは、ダビング防止とかじゃなくて、下心あってのことだから」
「なっ……」
下心、ですって⁉︎
しまった、この男、腹黒いんだった!
三神くんは、にっこり笑って言った。
「好きだよ。ずっと前から、好きだった」
