食事の件、私は1500円までという条件で受けたけど、回数でもめている。
「いやいやおかしいって。1〜4は分かるけど、5と6は何よ。特にプラスアルファって」
「そこの交差点、左」
「はい。話聞いてる? 回数のカウントおかしいって」
「着いたよ」
三神くんに案内された店は、裏通りにある、こぢんまりした定食屋さんだった。
「いらっしゃい、ま、せ……」
元気な声が途中からディミヌエンド。
「ちょっとあなた、コンマスが彼女連れてきた!」
おかみさんが慌てて厨房に声をかける。
コック姿の旦那さんが姿を見せた。
「いえ。彼女じゃないです」
否定しておかないと。
三神くんに促され、席に座る。
小さい店内はほぼ満席だ。
「ご主人とおかみさん、オケの人?」
「うん」
「いいの?」
「ここの定食おいしいから」
「そうじゃなくて……」
「お肉とお魚どっちがいい? 定食メニュー、それしかないから」
本日のメニュー、お肉は生姜焼き。お魚は煮魚。
「……お魚がいい」
「いらっしゃいませ〜」
おかみさんが満面の笑みを浮かべながら、お茶を運んできてくれた。
「お魚とお肉定食ひとつずつお願い」
「はい、かしこまりました〜」
「それから、彼女は会社の同僚。余計なことは言わない、広めない。よろしいですね?」
「え〜」
「広まってたら、ひとり弾きさせますので、覚悟しておいてください」
「それは勘弁したいわ〜。どうぞごゆっくり〜」
おかみさんは名残惜しそうに、私に会釈をして戻っていった。
すごい、コンマス権限濫用。
っていうか、こんな感じのコンマスなんだ。
「楽器は何だと思う?」
「当てたらプラスアルファの6回目はなくしてくれる?」
「……当てられたら、ね」
