恋色シンフォニー


五分ほどの曲が終わると、設楽さんが言った。
「さあ、誰が弾いていたでしょーか?」
「え……」
「当てたらご褒美あげる」
何なんだ、この人は。
わかるわけないでしょうが。
こういうときは。

「えっと……設楽さんご自身、ですか?」

「当ったりー!」

当たりかよ!

「……すごいですね……」
「どーも。ね、何でわかったの?」

それは、そう答えておけば無難だ、という社会人としての経験からです。
なんてことは言えるわけない。

「……なんとなく……」
「あっはっは! そーかそーか!」
この人の笑いのツボはよくわからない……。


会社の駐車場に着いた。
設楽さんは私に名刺を差し出す。

頂戴いたします。
……って、ひえぇっ‼︎
某有名音大の講師‼︎

……雲の上の人だったんだ……。

「ご褒美は、僕の連絡先。綾乃ちゃん、電話かけて。番号交換しよ」

名刺には、携帯電話の番号が手書きで書き加えられている。
半ば強引に番号とメールアドレスを交換させられた……。

ともあれ、お礼を言って車を降りる。
すると、設楽さんも降りてきて、会社のビルを見上げた。