恋色シンフォニー


「あの、ご家族は……」
「いないよ。僕ひとり」
「ご両親は、いつ……?」
三神くんは窓のほうを見た。
「中1のとき父親が、高3のとき母親が」
無表情で、言った。
思い出したように、こちらを見る。
「母親は病気だった。仕事で無理重ねてたんだろうな。働きすぎる女性は後で反動が来るから、橘さんが心配」
「……はい。気をつけます」
だからあんなこと言われたんだ。

音大に進んで、プロになろうと思わなかったの?
今になって、そんな質問はできなかった。
考えなかったはずはない。
ご両親が亡くなり、諦めざるをえなかったんだ。

デザートをいただく。
キウイがきれいにむかれている。
って。
「包丁、使うの?」
ヴァイオリニスト、包丁使っていいの⁉︎
「使わなかったら、どうやって皮むくの」
三神くんはびっくりしたようにこっちを見る。
「指、切ったらどうするの⁉︎」
「普通に気をつけてたら切らないでしょ。今まで切ったことない。橘さんはあるの?」
「……ある」
三神くん、吹き出した。
ひどい。
でも、笑った顔が、意外にかわいくて……心臓が飛び跳ねた。

もう、酔いは醒めてるはずなのに。