恋色シンフォニー

ヴァイオリンが長い休みに入って、初めて、コンマス以外目に入っていなかったことに気づいた。

いやいや、落ち着け、自分。
久々に生オケを聴いて、舞い上がってるんだ。
振動が肌に伝わり、全身で音を浴びて、思考回路がショートしたのかもしれない。

チェロのトップだって、相当上手い。
(ヴァイオリンソロだけじゃなく、チェロのソロもあるのだ。場所が中に入ってるからあまり見えないけど)

木管だって、見事なソロを披露している。

指揮者の女性だって、凛としていてかっこいい。

それなのに。
目に飛び込んでくるのは、コンマスの姿。

そうこうするうちに、またヴァイオリンソロ。

……心が絡めとられるようだ。
一体何者なの、三神くん。

ソロが終わると、トゥッティ(全員)。

コンマスは、リーダーの役割もしっかり果たしている。
アインザッツ、平たく言えば、『せーの』の合図が分かりやすい。決して大げさな身振りではないのに。
オケ全員で奏でる盛り上がる箇所は、先頭でみんなをぐいぐい引っ張っていく。

この人の下で、あるいはこの人と一緒に音楽ができるのは、とても幸せなことだろうと思う。
部外者だけど、そう感じさせるほどのコンマスぶり。

動揺したまま、第一曲がおわってしまった。

楽章の間で、バッグからハンカチを取り出した。

くそー、泣かされるとは思ってなかった。