恋色シンフォニー


‼︎‼︎
最初の一音で、全身の毛穴が逆立った。

下降と上昇を繰り返す、アラビアンなメロディ。


何これ何これ何これ。

そこそこ上手いとか、そういうレベルじゃない。
人生すべてをかけてヴァイオリンを弾いてきた人の音と弾き姿だ。

美しく、研ぎ澄まされた音色。
気品あるお姫様の歌声だ。
楽器が、歌ってる。

弦に吸いつくようなボウイング。
長い腕でかける豊かなビブラート。

全身から発せられるとてつもない迫力に、鳥肌が止まらない。

心の奥底まで揺さぶられ、涙がにじんでくる。


独奏にオケがかぶさり、物語が始まった。
さっきのシェヘラザード姫の語りで、会場全体が曲の世界に飲み込まれている。
アラビアン・ナイトの世界が華麗に展開されていく。

私はコンマスから目が離せなかった。

ヴァイオリンというのは残酷な楽器で、上手いかどうか、弾き姿で分かってしまう。
コンマスの弾き方は、とてもきれいで、いつまでも見ていたいと思わせる魔力がある。
ピチカート(指で弦をはじく奏法)でさえ、美しい。