開演時間を知らせるブザーが鳴る。

ドキドキ、ワクワク……。
本来、これからへの期待で胸が膨らむ、この時間が大好きなはずなのに。

今日は、複雑だ。
ほんとに、あの三神圭太郎がコンマスなの?

しばらくしてから、団員がぞろぞろと出てきた。

ヴァイオリンを持ったすらっとした男性が、目に入った。
歩き方が、きれいだ。
あのきれいな歩き方は、定時で帰る三神くんにそっくりじゃないの。

男性はコンマス席に立った。

向こうを向いているため、顔は見えない。

メガネかけてない。
髪型違う。
(三神くんはいつもナチュラルにしてるけど、コンマスはしっかりセットしている。)

コンマスがオーボエに合図し、チューニングが始まった。
管楽器の後、コンマスがAの音を拾う。

うわ。
キレイな音。しかも安定してる。

そのAの音を弦楽器に回す。

ただ、開放弦を全弓で弾いているだけで、弾き方が様になっていることから、上手いんだろうとは思う。

さらに。
落ち着き、自信に満ちた立ち居振る舞い。
まぎれもなく、オケの支柱だ。
その人がそこにいてくれるだけで、安心できる。

コンマスが席に座った。

指揮者が出てきて、メンバー全員起立して、客席を向く。

……ひゃー……ほんとに、三神くんだ……。