圭太郎は笑う。
「大丈夫だってば。ちょっと……幸せだなぁって思ってただけだから」
「え?」
「好きな子と、こうして、台所に立ってるの、すごくすごく、幸せだなぁって」

相変わらず、ちゃんと言葉にしてくれる。
顔が赤くなってしまうけど。

「高校生になってから、母さんに頼まれて料理を手伝うようになったんだ。それまで、怪我したら危ないなんて、誰かさんみたいな心配されて、台所に近寄らせてもらえなかったのに」

ええと、誰かさんとは私ですか。

「今思えば、僕に料理を教えてたんだ。自分が病気で長く生きられないとわかったから」

息をのんだ。
お母様は、どんな思いで、ひとり残していく息子と料理していたんだろう。

「綾乃まで泣かないで」
圭太郎は私をそっと抱き締めた。
「僕は今、とても幸せだから」

私はそっと抱き締め返す。

私の全てをかけて、この人を愛したい。
圭太郎が今まで寂しい思いをしてきた分、私の愛情でこの人を満たしてあげたい。
こんな風に自分から愛したいと思ったのは、圭太郎が初めてだ。

もうこれは、ベタ惚れだと認めざるを得ない。