恋色シンフォニー


「冷静に考えれば、わかることだったよね。
綾乃の大学オケのホームページで綾乃がやった曲を調べた。
メインのブラ1も、ファーストのトップサイドだったんだね。だから、僕の卒演のDVD観たくなかったし、この間のコンサートの時も、様子がおかしかった」

「……とてもじゃないけど、平常心じゃ聴けない」

「言ってよ。そうしたらメインの前で帰った」

「7年もたつんだもの、大丈夫だと思ったのよ……。全然大丈夫じゃなかったけど……」

でも。ちょっと待って。
ようやく働き始めた頭が、少し前の会話の違和感を訴えている。

「……さっき、私の演奏、見事だったって言わなかった……? 聴いたの?」

「加地さんに、定演の録画DVD持ってきてもらった」

……やられた。DVD返しか。
加地さんも、4年生で乗ってたっけ。

「きれいな弾き方してた。速いパッセージでも、ちゃんと左手も右手も動いてた。さすが綾乃だと思った。絶対のめり込んでめちゃくちゃ練習したんだろうなって。今、仕事にのめり込んでるみたいに」

ヴァイオリニストに褒められて嬉しいけど、何だか照れくさい。
「……だって、トップサイドだよ。弾けないとか言えない場所でしょう?」

指揮者の目の前。
トップの隣。
それだけでプレッシャーだった。