でも、あれ?
なんだか雰囲気が……?
以前、ここで追い詰められた時のような切羽詰まった雰囲気ではないけれども。
何だか気圧されて、ちょっと後ずさる。
が、狭いマンションの廊下ではすぐに壁に背中がついた。
リビングへ向かおうとすると、顔の横に手が伸びてきて通せんぼされた。
そして逆も。
……ちょっと。ちょっと待って。
これは、あれじゃないの。
まさか自分に壁ドンされる機会が来ようとは……!
ちらっと三神くんの目を見る。
情熱的な輝きが宿る瞳に、意識が根こそぎ持っていかれる。
「久しぶりだっていうのに、また、僕より楽器の心配?」
甘いテノールの声。
来た。
久々に来たよ。
……うれしいと思ってしまってる自分は、かなりやられてると思う。
「……顔が真っ赤。ドキドキしてる?」
「……すっごく……」
「じゃあ許してあげる」
三神くんは腕を離し、色気オーラをひっこめた。
「一度やってみたかったんだよね、壁ドンってやつ」
軽く言ってるけど。
やられた方は、動悸が止まらないんだから!
「何残念そうな顔してるの。夜は長いんだから、後でたっぷり、」
「ストップ! 言わなくていいから!」
もう。
何考えてるんだ。
「暑いから、部屋入ろっ」
先にクーラーのきいた部屋に入る。
