「別れるっていう話は、考え直してほしい」
「……え?」
「……え?」
お互いの温度差に、お互い戸惑う。
「綾乃の今日の話って、そのことじゃないの?」
「違うんだけど……」
「……僕はてっきり……。
あー、もー、今日の僕って、なんかいろいろだめだめだ。すごいかっこ悪い男じゃんか」
恥ずかしそうに頭を抱える三神くん。
ふと、愛おしいな、と思った。
スマートに仕事こなしてるし
ものすごい自制心でヴァイオリンの腕を維持してるし
完璧人間だと思ってたけど
こうしてみると、三神くんって、弱いところ、変なところ、抜けてるところ、あるじゃないの。
でも、それらは全然嫌じゃなくて、むしろ、全部ひっくるめて、愛おしく思える。
……ああ、やっと、丸ごと好きだと思える人に出会えた。
「……かっこ悪くても、私は、好きだよ、そんな三神くんも」
するっと言葉が出た。
もう、恋愛自粛期間、終了で、いいよね?
元彼と、昔の自分に、問いかける。
今度こそ、つらくても、好きな人を丸ごと愛したいと思えるんだ。
