恋色シンフォニー

「あのね」

「待って。その前に、僕に話をさせてほしい」

有無を言わせない口調。
こういうところ、さすがコンマスだなぁって思う。

「……どうぞ」

「この間は、本当に、ごめん。
言い訳にしかならないけど、あの日の僕はおかしかった。
昔の友達がプロになってるのを見たり、龍之介の演奏聴いたりしたら、もう、何ていうか、」

「いいよ、言わなくて」
あなたの音楽に関するプライドが高いのは知ってる。

……そうだ。あの日の三神くんはおかしかった。
コンサートの前はいつもより饒舌だったし、
休憩時間にはピリピリしてステージを睨んでたし、
私の家では、私を追い詰めたし。

自分に自分にいっぱいいっぱいで、三神くんのこと、見えてなかった……。


「綾乃が、龍之介に惚れたと思った」

「はっ⁉︎ ありえないから」
即答。
「……え、彼女の資格がないって、そういう意味じゃなかったの?」
「違う。全く」
「……もう、演奏で取り返すしかないと思って、焦って……」

音楽家の思考回路ってどうなってるの。

「でも綾乃に冷たくされるのが怖くて、会社では近寄れなくて……」

「それ、結構こたえた」

「いや、『帰って』っていうのも、かなりへこんだよ?」

お互い苦笑。
すれ違いとか喧嘩なんてこんなものか。