「シンフォニーとコンチェルトやった後の全力疾走って、マジでしんどい……」
ペデストリアンデッキのベンチにぐでーっとなり、つぶやく三神くん。
「お水。さっき買って少し飲んじゃったけど……飲む?」
「飲む」
私たちの間にもう壁はなくて、前みたいに話せて、バカみたいにうれしい自分がいる。
三神くんがペットボトルの水を一気飲みすると、喉が動いて、色っぽくて、ドキっとする。
隣で見つめていた私は、慌てて目をそらした。
「何でそんなに走ってきたの?」
「……綾乃と加地さんが仲良く話してるって電話してきたお節介がいてさ」
「……早瀬さん?」
「ご名答」
「それで、何で全力疾走? 楽器に悪いよ?」
地面に置かないで、ちゃんと膝の上に置いてるヴァイオリンケースに目をやる。
「……それ、言わせる?」
あ、やばい。
久々に色っぽいオーラを出してきた。
「しかも、僕より楽器の心配?」
とても魅惑的な声に一瞬クラリとする。
でも。
だめ。引きずられる前に、ちゃんと話しなきゃ。
「三神くん」
私は固い声を出した。
「お話があります」
「はい」
三神くんは色気オーラをひっこめ、姿勢を正した。
