恋色シンフォニー


「橘は? 今でも弾いてる?」

ニコニコ、笑顔が眩しい。
太陽みたいに周りを照らして、明るくしてくれる。
大学時代と変わらないなぁ。

「いえ、卒業後は全然です。仕事が忙しくて」
「そっかー。もったいない。それにしてもキレイになったなー」
確かに、大学時代の私はダサかった……。

「あ、お疲れ様でした」

加地さんが挨拶した方を見ると、

……早瀬マリさん。

相変わらず素敵だ。
長い髪をきっちり後ろでまとめて、しっかりメイクして。
高そうなパンツスーツに、オシャレな靴。ブランドものの大きなショルダーバッグ。
それでも派手な感じがしないのは、アクセサリーをしていないせいだろう。指揮台で光ると演奏者の邪魔になるから、という配慮なんだと思う。

強く、美しい。

でも。

ふと、この人も、メイクや服を鎧にしているのかな、と思った。

「お疲れ様でした。お知り合いですか?」
早瀬さんが微笑みながら私達に言った。

「大学オケの後輩なんですよ。ここでばったり会って!」
加地さんが答える。

「まあ、そうですか」
楽しそうににっこり笑う早瀬さん。

「では、ごきげんよう」

すれ違いざま、ふわっとシャネルのエゴイストプラチナムの香り。
男性ものの香水。
彼女の雰囲気に似合っているけど、香水も彼女の鎧アイテムなんだろうか。

駅へと歩いていく彼女は、バッグからスマホを取り出し、話し始めた。
後ろ姿を見つめていると、加地さんが言った。