恋色シンフォニー



状況は変わらないまま、8月最後の水曜日夜。

東京出張のついでに都内のドラッグストアを回ってきたら、こっちの駅に着いたのが夜10時を過ぎてしまった。

地下の駅から地上に出ると、むっとした空気がまとわりつく。

ペデストリアンデッキを歩いていると、
向こうからヴァイオリンケースを肩にかけて歩いてくる男性がいた。
いや、違うな。大きいから、ヴィオラかな。

すれ違い、はたと気づく。
向こうも同じだったようで、お互い振り返った。

「橘?」
「加地さん?」

大学オケの一期上のヴィオラの加地さんだった。
弦セクションのリーダーをしていた、熱血漢の先輩。

「おー、久しぶり! すっかりキャリアウーマンしてるから、一瞬わかんなかったよ」
「お久しぶりです! 加地さんは、練習ですか? こちらにお住まいなんですか?」
「いや。こっちの市民オケでエキストラするんだけど、今日はホールリハで、その帰り」

……まさか。

そのまさかだった。
きいてみたら、案の定三神くんのオケ。

そうか。本番まであと1ヶ月だ。
ホールは駅からすぐの場所にある。