「さすが橘ちゃん」
望月さんを見送った後、ちょうどお客さんが切れたこともあり、チーフの井上さんが話しかけてくれた。
「でもね、自分のお肌が荒れてるわよ」
「歳ですかね〜」
「喧嘩売ってる?」
そういう井上さんは、とてもとても50代には見えない美魔女だ。
元化粧品会社の美容部員だけあって、接客がものすごく上手い。
私が新入社員の時、みっちり仕込んでいただいた。
「まーた無理してるんでしょ。少し肩の力抜いて仕事すること覚えないと。橘ちゃんには長く続けてほしいんだから」
「……はい。ありがとうございます」
ふと涙が出そうになった。
「橘ちゃん、お疲れ!」
勤務時間を終えると、事務所で店長がペットボトルのスポーツドリンクを渡してくれた。
まだ40代。なかなかのイケメンで、彼を目当てに女性客が来るほどだ。
「やー、伝説の新人販売員の腕は落ちてないね。助かっちゃったよ。おかげで予算行きそう!」
「そんな、やめてくださいよ、伝説だなんて。店長とチーフのおかげなんですから」
「あはは。明日もよろしく。ついでに年末も応援予約しとくね!」
私って、ほんとに、周りに恵まれてる。
努力を認めてくれて、ほめてくれる人がいる。
ありがたくて、うれしい。
