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設楽さんの車の後部座席に座る。
隣には、お高いであろうヴァイオリンが入っているケース。
緊張する……と思っていたのは最初だけで、次第に心地よい揺れで眠くなってきた。
バックミラーでそんな私に気づいたんだろう、設楽さんが、
「寝てなさい、綾乃ちゃん」
と優しく言ってくれる。
「寝てていいよ、綾乃」
三神くんも助手席から振り返ってくれる。
私は目を閉じる。
しばらくして、眠りに落ちる間際だった。
「そういえば、マリちゃん、T国際指揮者コンクールの書類選考通ったって?」
「ああ。報告された」
静かな、2人の声。
瞼は閉じたまま、意識だけが繫ぎ止められる。
日本で開催される国際指揮者コンクール。歴代の入賞者には、錚々たる日本人指揮者の名前が並ぶ。
早瀬さん、それに出るんだ。
遠い世界の話みたい。
「第二予選じゃ、ヴァイオリンコンチェルト入るから、今日のがいい経験になったろ」
「好き勝手引きずり回してたな」
「そのおかげで、オケの奴らも指揮者に頼らざるをえなくなっただろ? ちゃんと要所要所で指揮者とコンタクトはとった」
「聴いてる方の身にもなれよ。ハラハラしただろ」
「ブラ1どうだった?」
「指揮者につけてたよ」
「だろ? さすがオレ様」
早瀬さんの話は聞きたくない。
私は意識を手放した。
