第1楽章が終わった時には、心底ほっとした。
小声で隣の三神くんにささやく。
「ごめん、ちょっと出てるね」
ドア係の人に扉を開けてもらうと、入ってくる人とぶつかりそうになった。
すみません、と頭を下げながら通り抜ける。
と、目眩がした。
足元がふらつく。
倒れそうになる身体を、その人が抱きとめてくれた。
「大丈夫?」
嗅ぎ覚えのある、微かな甘い香り。
設楽さん……。
「すみません……」
「ちょっとごめん」
えっと思う間もなく、抱き上げられた。
人生2度目のお姫様抱っこ……!
あなた達師弟の得意技ですか⁉︎
「いえ、あの、歩きますから!」
三神くんが知ったら、絶対怒る!
「だーめ。でも、あいつにばれるとうるさいから、秘密だよ?」
……考えてることが一緒だったので、おかしくなった。
抵抗できるほどの元気がなかったので、大人しく抱えられた。
2階ロビーのソファに座らせてくれる。
「お水持ってくるから、待ってて」
演奏会中だから、ひと気はない。
音がしなくて、ほっとする。
