オケの短い前奏の後、ソロヴァイオリンが低い音から静かに独奏を始める。
ーーーうわ、、、
すごい……
磨き抜かれた美音。
芯のある、強い音。
静かな中にも、情熱を秘めた、緊張感あふれる、息の長い旋律。
それにオケが応えると、私は息を止めていたことに気づいた。
隣で、三神くんも大きく呼吸をしているのがわかった。
きっと同じだったんだろう。
設楽さんの弾き方は、三神くんと似ている。
正確には、三神くん が 似ている、んだろうけど。
文句なしに、好みだ。
それにしても。
設楽さんのブルッフ、個性的……。
符点ためるなぁ。
微妙にテンポを揺らしたり。
3音以上の重音を“ジャン”じゃなくて、“ジャラーン”と鳴らしたり。
自分はこう思う、こう表現したい、こう弾きたい、というのが強烈に伝わってくる。
それがかっこよくきこえるけど。
オケは合わせづらいだろうに。
オレにつけろ、とばかりに、早瀬さんにアイコンタクトとザッツを示す設楽さん。
設楽さんの微妙なタメやテンポの変化を汲み取って、オケにキューを出していく早瀬さん。
さっきの序曲ではあまり細かい指示は出していなかったけど、協奏曲では微調整が必要になるんだろう、かなり動きが増えている。
そんな設楽さんと早瀬さんの動きをガン見するコンマスの早乙女さん。
それぞれの火花が見えるような、スリリングな演奏だ……。
三神くんが大学オケでやったチャイコはみんなでたくさん練習してきたんだろうから、オケとソロがひとつになっていたけど。
このコンチェルトは、“競奏曲”とでも呼びたくなるくらい、ピリピリしている。
