恋色シンフォニー


最初は、モーツァルトの『フィガロの結婚』序曲。

タクトがわずかに動き、
躍動感あふれる音楽が走り出した。


……さすがプロオケ。
弦の音程も細かい音符の粒も揃っている。


三神くんの定演の時は、三神くんの姿に釘付けで、指揮者はろくに見ていなかった。
だから、今日、初めて、早瀬さんの指揮する姿をちゃんと見るわけだけど……。


……素敵だ。


指揮者になるには、並外れた才能と情熱と努力が必要だという。

小さな頃から今まで音楽をやってきてるんだし、ヴァイオリンでも指揮でもコンクールに入賞してきたんだから、才能はあるんだろう。

女性指揮者といって思い浮かぶ名前は、私は数人しかいない。
そんな茨の道を歩んでるんだから、情熱もあるんだろう。

三神くんが、“ものすごく努力してきたはず”と言ってたから、きっとその言葉どおりなんだろう。


……強い。強すぎる。

……私なんか、かないっこない。

敗北感でいっぱいの私を置き去りにして、モーツァルトは華やかに響きわたる。