「ひとりにしてごめん」
三神くんが私のテーブル、向かいに座った。
いつも通りの声に、ほっとすると同時に、少しイラっとした。
だめ。
今日はせっかくのデートなんだから。
雰囲気悪くしたくない。
私は、下を向いたまま、
1、2、3。
3つ数え、根性で口角を上げ、顔を三神くんに向けた。
お腹に力を入れる。
「楽しそうで良かった」
「うん。同学年で、よくコンクールで会ってた。早乙女くん、ああ見えて……」
饒舌な三神くん。
私は笑顔を貼り付けて、相槌を打ち続けた。
そして、気になっていたことをさりげなくきいてみる。
「早瀬さんって、どんな指揮者?」
「そうだなぁ。
変にかっこつけないで、全力でぶつかってくるかんじ。こっちも全力で応えようという気になる。
やりたいことが明確。かといってオケに押し付けず、意見をきいた上で方向性を一緒に作っていく。
自分自身も楽器やってたから、団員のプライドを尊重してくれる。
歳の離れたベテランメンバーにも物怖じしない。
緊張をほぐす話術も巧み。
団員の名前を覚えてくれる。
あの年齢で……というか、同い年だからこの年齢で、と言った方がいいのかな? 大したものだと思う。ものすごく努力してきたはず」
……ベタ褒めなんだね。
きかなきゃ良かった。
心の中は冷えきってドロドロ。
必死で笑顔を貼り付ける。
明日はきっと、顔が筋肉痛。
