「レッスンの出張費用代わりに、昼飯作らせてんの」
お昼ごはんを3人で食べながら、設楽さんが私に説明してくれる。
メニューはハヤシライス。
「昼ごはんだけじゃないこともあるだろ。長居しておやつとか飲み物までせびる奴、誰だよ」
「だって、おまえ、料理とお茶汲みは、オレよりうまいだろ」
「……なんかカチンとくる言い方だな」
「ふふん。ま、2人にお祝いといっちゃなんだけど、これをあげよう」
設楽さんがテーブルに置いたのは、コンサートのチケットとチラシ2セット。
中学生・高校生向けの夏休み特別企画、プロオケの格安コンサート。
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モーツァルト 『フィガロの結婚』序曲
ブルッフ ヴァイオリン協奏曲 第1番
ブラームス 交響曲第1番
指揮:早瀬マリ
ヴァイオリン独奏:設楽龍之介
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早瀬さんが指揮で、設楽さんがブルッフ弾くんだ……!
退屈しにくい曲のチョイスのうえに、チラシには、バッチリ美女と美男の顔写真。
なるほど、敷居は低くなるわね。
でも……ブラ1か……。
「その日、都合大丈夫?」
設楽さんがきいてくる。
8月上旬の日曜日午後。
三神くんを見ると、眉間にシワをよせている。
でも、私の視線に気づくと、少し笑ってうなづいてくれた。
私は設楽さんに向かって笑顔で答える。
「はい。楽しみにしてます」
