君色のソナチネ





ー華菜sideー




やっぱり純怜は只者じゃないわね。




それと、本番前には絶対自分を取り乱したことのない純怜を混乱させるほどの演奏をしていたあいつも。




なぜか、心配になって舞台裏にいる純怜の様子を見に行ったけれど、結果的によかったわ。




あの子が混乱してたのには驚いた。

何が原因か、はっきりとは分からないけれど、あいつの演奏を聴いてだと思うの。




私も、意外だとは思ったけれど、なんとなく分かる様な気もした。




あいつが、純怜を見ている時の目は、優しい。

多分、お互い気付いてないのだけれど。




演奏には、その人の性格や現状が出てくるもの。




だから、暖かさが出ていてもおかしくはないんだ。




それにしても、毎回聴くたびに純怜は、技術も表現も伸びてることが、私にでも分かる。

何処まで伸びるのだろう。

怖くはならないのかな。




私はたまに、ヴァイオリンを何処まで追求できるのか、先が全く見えなくて、怖くなるときがある。




純怜には、そんな思いないのかな。




少しだけ、不安を抱いていると、


''ほら、こっちへおいで''


そんな声が聞こえた気がした。




その瞬間、私の周りには森が広がる。

私はたぶん、渓流の中にいて、流れに揉まれながら周りを見ている。

鳥がさえずり、動物達が鳴いている。

やがて、世界は移り変わり、砂漠を流れ、そして海へと流れていった。



それはまるで、自分が1羽の水の精になったかのようで、本当にその世界へと引きこまれたかのよう。


自分でも興奮しているのがわかる。

でもそれと同時に、元の世界へ戻れるのか不安でもあり、軽い恐怖でもあった。


そんな、私の気持ちに寄り添うかのように、最後は、和音の深い深い暖かさに包まれ、その世界は儚く、一瞬の悲しみを伴って消え去っていった。