ー純怜sideー



話してると、華菜がふと見やった。

「純怜、後ろ。」

「ん?」

「神峰君がこっち来てるよ。」

2人からそんな事を言われる。




「神峰、どうしたの?」

「おい純怜、ちょっといいか?」

「?うん。」




次の授業、遅れないようにね〜!

なんていう2人の言葉を尻目に、教室を出る私達。

人混みやだなぁなんて思ってたら、女子がきゃーきゃーいいながら道を開けてくれる。

モヤモヤ。

ん?

モヤモヤ?なんで?

まぁいいか。




あっという間についたそこは屋上。

「あっ、文化祭以来だぁ〜‼︎」



扉を開けると広がる水色の空。

筆でさっと描いたような白い雲が浮かんでいる。

5月って、1番木々や草花が生き生きする季節だよね〜。

暦の上ではもう春も終わり。

午後1時ともなると、ジリジリと刺してくる太陽。

それが着々と夏に近づいている事を教えてくれる。

屋上の真ん中にある花壇には、ハナミズキの木が植えてあって、その周りを色とりどりの花が飾っている。

みずみずしい若草色の葉が、花壇の脇に置いてあるベンチに影をつくってる。




「ほら、こいよ隣。」



そのベンチに座った神峰から呼ばれた私。

あぁ、やっぱり神峰の隣は安心だぁ。

葉と葉の間から刺す木漏れ日が心地いい。

眠たくなってくる。

でも、せっかく神峰といれるんだっ、起きてなきゃ!



「うぅ〜ん…!」

思わず伸びをしてしまう。

あ、これマズかったかな?

また女子っぽくない行動だった?

そう思って隣を見ると、


「フッ、」


と言って笑ってる神峰。

その笑顔がカッコよくって、またドキドキしてしまった。

そんな私の頭をポンポン撫でながら、

「その顔、他の男に見せんなよ。」

って言ってきたんだぁ。

だあーー!

隣にいたら心臓破裂しちゃうよー!






そう思って、フェンスの所まで駆けていく。

でも、スグに追いつかれ。

フェンスを持って景色を眺めてる私の隣に、フェンスに背を向けてもたれかかる神峰。



「あ、そういえば、神峰、私に話したいことあったんでしょ?」

「あぁ、そうだったな。
今日、お前放課後空いてるか?」

「へ?えーっと…、
うん、空いてるよ!」

「5時からの合唱、付き合ってくんねぇ?」

合唱って、教会のかなぁ?

「ついて行っていいのー?!」

「あぁ、あいつらの合唱聴いてやってほしい。
それで出来ればお前の評価を聞きたい。
今度コンクールなんだよ。」


や、やったぁ!

「もう一回あの教会行きたいって思ってたんだあ!」

でも行き着かない気がしてたから、行くのやめたんだよね〜‼︎



「で、でも私なんかでいいの?
私、合唱経験ないよ?
それこそ、あっちゃんとか、ゆきちゃんとかの方が…、」

モヤモヤ。

あ。またこの感覚。

何だろう、このいやーな、感覚。

自分で自分の事が嫌いになりそうな感覚が広がってきて。

途中で言いかけてしまった。



「俺は、お前に聴いて欲しいんだ。」



でも、そんな神峰のコトバ一つで、そんな感覚も消え去る。



「うん、私でよかったら。
頑張りますっ!」

「ありがとう、純怜。」



う、そんな、ありがとうなんか言われてもっ。

その笑顔、反則だよ〜‼︎

「か、神峰、眩しい。」

「あ?何言ってんだお前。」



うぅ、分かってよ。
いつも分かってくれるくせに。


「へぇ、俺のこと、そんなに好きなんだ?」


な、な、何て事を。

やっぱり分かってくれなくていい。


「そういえば純怜、もうそろそろ俺のこと、名前で呼ぶのに慣れてもいい頃じゃねぇか?」


急にそんな事言わないでよ。
こいつ、分かってやってるなー!


「呼んだことあるもん。」


「呼んだことあるもん、ねぇ〜。
ふーん。」


「な、なによ。」

目を細めて腕を組んで見てくる神峰。

こ、怖い。


「じゃ、今から名前以外で呼んだら罰ゲームな。」


「は、はあ〜〜?!!」


ば、ば、罰ゲームってなにするんだよっ‼︎

あ、青汁飲めなんか言わないよね?

あれ、私大嫌いだよ〜‼︎



「ふぅーん、青汁。」


「ひぃ。声に出てた…?」


「あぁ、バッチリ聞かせてもらった。」


「ぎゃーーー!
やめよ、やめよ、こんなの。」


「あぁ?
俺の名前、呼んだことあるんなら、勿論、呼べるよな?」


「う''ぅ。」


「はい、決行〜‼︎」




…これ、私にはメリットってやつないんだよね?