かなり落ち込んでいるであろう私に、声をかけてきてくれた華菜。
「華菜ちゃ〜んっ、ぐすっ。
なんでこうなっちゃったの〜?ぐすんっ。」
華菜の声をきいたらホッとして思わず涙もでてきちゃった。
「なんでかなー?あの男の勢い凄かったもんね。なんか流石、神峰 奏って感じ!」
「えっ、華菜なんであの男のこと知ってそうな口ぶりなのさ?ぐすっ」
「知ってそうもなにも、今や有名人じゃないの!新進気鋭の若手ピアニスト、神峰 奏。
最近、メキメキと実力を伸ばしてて、クラシック音楽界じゃ知らない人はいないよ!」
え''っ。
「全然知らなかった…」
驚き過ぎて、涙も乾いちゃった。
「嘘でしょ…。
っていうか、朝からみんなが興奮して話してたじゃない‼︎
''あの奏様が転校してくる''って。
''きゃー、本当に?私の演奏聴いてほしい‼︎''って言って、みんなすごく騒いでたよ?
樹音も私たちが教室について早々、話してくれたじゃない。」
「…。」
さっき、期待してたこと、ある意味当たってるじゃん…。
有名ピアニストって、あながち間違っていなかったってことでしょ…。
「樹音の話、ちっとも聞いてなかったのね。」
「はい、すみません。」
「しょうがないから、今日のところは、あの方に聴かせる他ないんじゃない?
大丈夫よ、純怜なら。」
「えーん、華菜ちゃんのイジワルっ!」
「なんで私が意地悪になるのよ。
しょうがないでしょ!
あの男の勢いには、誰も口を出せなかったのよ!
でもさっきから大丈夫って言ってるでしょ。
きっと、あの男も、なにか考えがあっての行動だと思うよ?
純怜はすみれらしい演奏をするだけだよ。」
「…くっそ、もう、分かったよ。弾いてやるよ。」
「そんなにピリピリしないの。私もしっかりと聴いてるから、頑張ってね。」
「…うん、とりあえず弾いてくるわ。
ありがとう、華菜。」
華菜が聴いててくれる。
それだけを考えて弾けばいい。
やると言ったら最高の演奏してやる。
確か、あいつが弾いた後に弾けって担任に言われたんだったな。
こういう場で持ってくる曲は、大体5分程度と相場は決まってるから、ここからホールまでの移動の時間も考えると…、私が弾き始めるのは、8分後ってところか…。
いや、うちのクラスのミーハー女子どものことだから、アンコールなんていいそうだな、2分くらい、足しとくか。
ってことで、私が弾くまで、あと10分くらい。
よし、いける。
そう確信して、私はいつも本番前にするルーティンの中でも、短時間バージョンのルーティンをし始めたのだった。

