沈黙が流れる。
階段下に視線を落とすと、
じっちゃんが心配そうにこちらを見あげていた。
もう一度海斗に視線を戻すと、
海斗は不機嫌そうに私を見た。
「そいつ、お前から離れたんだろ?
もう好きでもねえんだろ?」
「・・・そうだけど・・」
「自分のこと好きだって言わねえ男、
好きでい続けてなんの得があんだよ」
得?
そんなこと知らない。
損得で人を好きになるようなことはしない。
ただ、好き。
大好きで、大好きで、大好きで。
そんな自分の感情が、特別だって感じてる。
得なんかないのかもしれない。
自分を見ていない人を好きでい続けるのは、
辛いだけかもしれない。
だけど私は・・・。
「傷ついてばっかの恋、苦しくないのかよ。
幸せになりたくねえのかよ」
「・・・あなたといたら、私は幸せになれるの?」
「え?」
海斗が、私の言葉に顔を強張らせた。
「葵ちゃんに言ったみたいに、
“俺が幸せにしてやる”って私にも同じことを言うの?」
ああ、傷つけた。
私は海斗にとって
一番言っちゃいけないことを言った。
海斗の心の奥深くにある傷を、増長させた。
怒るかな?悲しむかな?
少し言い過ぎたと思い始めた時、
海斗が私に返した言葉も、私にとっては重たかった。
「時間の無駄だろ。馬鹿じゃねえの?
もう終わってんだから、その恋は無意味だ」


