〈なに?〉
「・・・なんか、眠れなくて」
〈ふうん。音楽でも聞いてりゃ寝れるよ。
とにかく夜は余計な事考えるから早く寝ろ〉
「・・・うん。ごめんね」
〈いや、ごめんはいいんだけどさ。本当にそれだけなん?〉
本当は、もっと言いたいことがあるよ。
あのね、私、夢を見るの。
あの事件の夢を見るの。
そうすると必ず、あなたが出てくるのよ。
“だから俺は言ったのに”
“お前が悪い”
って、あなたが私の目をまっすぐ見てそう言うのよ。
それが怖くて、哀しくて・・・。
でもそんなこと言えなかった。
あなたの冷たい声を聴いたら、言い出せなかった。
「うん。電話ごめんね、ありがとう」
〈はいよ〉
「おやすみ」
〈おやすみ〉
電話を切って、1人になる。
次第に涙が溢れて止まらなくなった。
“何かあったら必ず連絡よこすこと”
そう言ったじゃない。
そう言ったのはあなたなのに、
そんな冷たい声で突き放さないでよ・・・。
やっぱり彼は、気まぐれでした。
あの日限りの、言葉でした。
それが哀しくて、わかっていたのに哀しくて。
この手段に頼ってしまったら、
もう学校には戻ることはできないのに。
私は頼らざるをえなくなって、
2階の寝室の扉を開けた。
「お母さん、お父さん、助けて・・・っ」
ああ、もう。戻れない。
復帰まであと4か月と1日。
あともう少しだったカウントダウンが
途切れた瞬間だった。


