〈もしもし〉
「も、もしもし・・・今おうち?」
〈ああ、うん。そうだよ〉
「ひ、1人・・・?」
〈うん〉
「・・・・・」
震える声をなんとか抑えようとして、
唇をかみしめる。
電話の向こう側も静かで、
私のいる空間も静か。
もやもやで、うずうずし出して、
今にも泣きだしそうだった。
〈なに?〉
「あ、あの・・・学校、楽しい?」
〈うん、楽しいよ?〉
・・彼の声が、冷たい。
どうでもいいって言われてるみたいな、冷めた声。
何か怒ってる?
彼の気持ちがわからない。
顔の見えない電話は、
相手がどんな表情なのかわからないから、話し辛い。
私が黙ってしまうと、彼は小さくため息をついた。
そのため息が、私の鼓動を早くした。
〈なに?何かあるの?〉
「・・・・」
〈なんで黙るん?〉
「あの・・・・なんか怒ってる?」
〈いや?全然怒ってはないけど、なんかおかしいなってさ〉
助けて。
助けて。
お願い、助けて。
怖いよ。
あなたしか知らないのよ。
あなたにしか、話せないのよ。
声を聴かせて。
安心させて。
お願い。
お願い・・・。
“助けて”の一言が、
どうしても出てこなかった。


