「おーい、聞いてんの?」
【話したくないから話さないの。
もう、構うのやめてよね】
色んなこと考えると、
またあの嫌な記憶が蘇る。
何度もリピートされて、
それは終わりの無いエンドレス。
そうすると、怖いの。
冷たい声に慣れてしまうのが怖いの。
そのせいで優しかった温かい声を
忘れてしまいそうで、私は怖いの。
「あ、おい、電車もうすぐ出るぞ!」
頭の中がこんがらがって、堪らなくなる。
何かに突き動かされるように立ち上がって
私は電車を降りた。
アナウンスが鳴り、ドアが閉まる。
窓のところにあの男が立っていて、
私を見て懸命に口を動かしていた。
何を言ってるんだろう。
まるで私みたいだ。
いくら口を動かしても、
いくら自分では声を張り上げても、
誰にも届かない。
悲しいね。
あんたの声も、私には届いていないのよ。
そして私の声も、あの人には届かない。


