恋より先に愛を知る




あれから毎日、
じっちゃんとの会話が続いた。


自分のことは〝じっちゃん“って呼んでくれって、
じっちゃんは言った。


別に毎日ここに来ようって言ってるわけじゃない。


なんとなくここに来ると、
じっちゃんもなんとなくここに来るんだ。


じっちゃんの日常の話や子供のころにきいた昔話なんかを
面白おかしく話してくれたり、

私が自分のことを話したり。


じっちゃんは私の汚い字を一生懸命読んでくれて
何かしらの反応をみせてくれた。




私はじっちゃんと会って、ある人を思いだしたの。


私の恩師、小学生の頃に出会った、理科の先生を。


自分の思いをなかなか人に伝えることができなくて、
いつも放送室に引きこもっていた私に、


あるとき一冊のノートを手渡してこう言ったの。






―思ってることをここに書いてごらん。


 花が綺麗だったとか、これが哀しかったとか、
 なんでもいい。

 先生とこのノートで会話をしよう―





あの先生のおかげで、今の私がある。


その先生といる時の感覚と、似てるんだ。



私が書けば、応えてくれる。


先生も、じっちゃんも。



私はじっちゃんとの出会いを、
先生との再会と重ね合わせていた。



まるでこれは、
あの頃の延長線上にある時間。


私の本当の気持ちを、
心の中を浮き立たせてくれる人たちとの会話は
私にとって宝物同然だった。