恋より先に愛を知る




おじいさんは私をじっと見つめると、
そっと微笑んだ。






「あんた、好きな人がいるんだなぁ」





その言葉にびっくりして、
私は目を丸くする。



なんでわかるの?


ただ、どんな歌なのかを
簡単に説明しただけなのに。



戸惑いを隠せない私を見て、
おじいさんは今度は大きく笑った。



「歌を聴けばわかるさ。歌詞はわからなくたって、
 気持ちがこもってるものは誰にだって伝わるものだよ」



それを聞いた途端、
急に恥ずかしさが込み上げてきた。


ひとりでに自由に歌っている時には楽しくて、
何も考えずに歌えるけど、


人に聞かれてると思うと急に恥ずかしくなる。



頬が熱くなるのを感じると、おじいさんは言った。


「こんなじいさんだがね、
 人生をあんたよりも随分長く生きてきた経験者だ。


 差支えなければ話を聞かせてもらえないかね?
 別に今日じゃなくていい。話したくなった時で構わんよ。
 そうしたらその話に何かしらのアドバイスをしてあげよう」




おじいさんの言葉に、私は不思議とうなずいていた。


月が出るといいなぁ、って、
そう呟くおじいさんと一緒に空を眺めて、
しばらく何も話さずにいた。



そうして自由にのんびりとその場にいて、
気がつけば軽く挨拶を交わして私は家に戻っていた。



出てくる前のモヤモヤやざわめきは全くなくて、
家に帰るとすぐに眠った。