恋より先に愛を知る




「どうかね。当たってるかい?」


頷く私を見て、おじいさんは微笑んだ。


「実はね、あんたが気になって仕方なかったんだよ」


私を?どうして?


おじいさんを見つめて首を傾げてみせると、
おじいさんは猫の頭を撫でながら続けた。


「私の妻・・・婆さんと
 同じ病気なんじゃないかって、心配だったんだ」


【同じ病気?】


「いつだったかなぁ。もう何年経ったかね。
 婆さんも急に、元気を無くした日があった」


おじいさんの話を、私は黙って聞いていた。


時折猫が小さく鳴いて、まるで構ってよ、
と言っているようにおじいさんの手に頬をすり寄せる。


それに反応するように、
おじいさんが優しく撫でてやると、

猫は安心したようにまた鳴き声をあげていた。



おじいさんの奥さん、つまりおばあさんは、
私ととてもよく似た症状があった。


人が信じられなくなって、いつも疑心暗鬼。



ちょっと元気が良すぎると思ったら、
途端にスイッチが切れたかのように落ち込んでしまう。


突然泣き出したり、

あるいは笑ったり、

時には怒り出して周りに当たることもある。



話を聞いているとなんとなく
自分のことを話されているみたいで少し怖くなった。


「最初のうちは大変だったな。
 こっちも訳がわからんから、

 怒っていいのか、いかんのか・・・。
 婆さんは昔は、そんなに気性の荒い人では
 なかったからね。

 戸惑ってばかりだった」



そう。わかってる。


私のおばあちゃんも、そうだから。


そんなおばあちゃんを初めてみた時は、
私も戸惑ってばかりだったから。


おばあちゃん自身もわからない。私もわからない。


何が正解なのかがわからないから、
イライラもするし、戸惑う。


行き場のない不満が、間で浮遊するんだ。


「婆さんは、鬱だった」


おじいさんが口を開いた。


「婆さんの意思ではないと知った時、
 私は病気を憎んだよ」



おじいさんの言葉は、
紡がれた瞬間、私の胸を強く打ちつけた。








「どうして、婆さんだったんだって、私は思ったんだよ」