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ピアノの置いてある部屋に入って、
鍵盤をポンと鳴らす。
調律が必要なこのピアノは
少し音がずれかかってる。
まるで私みたい。
小さい頃から大好きな曲をうろ覚えで弾いていると、
ケータイが鳴った。
≪ねえ、あかね。
あんた和輝くんと別れたの?≫
ドキって、
嘘がばれてしまった時のように、
本音を知られた時みたいに、
心臓がバクバクと音を立てて動き始めた。
本当にタイミングっていうのは恐ろしい。
何も知らない人たちが、
平気で傷をつけてしまうもの。
今の私にとって
その名前はタブーだったのに・・・。
≪うん。とっくに。どうして?≫
≪だって、あんたも和輝くんも最近全然そういう話ないし・・・
ツイッターとかでの絡みもないし≫
≪そっか。ごめんかずさんのツイッターは
見ないようにしてるからわかんなかった≫
≪そうなんだ。・・・なんかごめんね≫
彼にとって、変わったことは一つだけ。
私がいなくなったことだけ。
それだけで、全てが上手くいくのかな。
今が一番、楽しいのかな。
皮肉だよね。
人が1人、そばからいなくなって上手くいく人と、
いなくなったことで今が1番辛くて
真っ暗な人が同じ時の中にいる。
どうしてあなたはそんなにあっさりと、
私をあなたの中から消してしまうことが出来るの?
なんて、
そんな傲慢な考えを抱いてしまう自分が嫌い。
途端にざわつく自分の心に耐え切れず、
私は外へ飛び出した。


