恋より先に愛を知る




家に着くまでの間、
私たちは一度も話さなかった。



カイトは、私に一切話しかけることなく
ただ隣を歩いていた。


初めて会った日に、間を空けずに隣に座った時とは違って、
今度はほどよい距離感を保って。


「ここでいいの?」


【うん。すぐ曲がったとこだから大丈夫。
 ありがとう】


「じゃあ、また・・・」






また、なんてないよ。


私はあなたといるのが怖いのよ。


彼を見ているようで、怖い。






『あかね』






家の中に入った瞬間、涙が溢れた。



今さらになって、
どうしてこんなに思い出すの?


カイトのせいよ。



あんなふうに、彼と似た仕草を私に見せるからよ。






“ばか”




バカ。


バカ。



カイトのバカ。




どうしてこの町で、
そっくりな人に出会っちゃうんだろう。



忘れたいのに、
忘れさせてくれないんだね。



私の中の彼は、私の中にいつまでも
留まって消えてはくれなかった。



カイトの直してくれたリングが音をたてる。



鏡に映し出された私の首には、
しっかりとぶらさがっていた。