日が落ちて。
空が薄暗い藍色に染まる頃、
カイトはゆっくり立ち上がって伸びをした。
「そろそろ帰るか。送ってくよ」
【1人で帰れるよ】
「ばっか。女の子1人で帰すアホいるかよ。
年下だっつってナメんなよな」
【でもいつもこのくらいの道は大丈夫だよ】
「そう思うのはアンタだけ。
いくら田舎だからって危ねぇもんは危ねぇの」
カイトが私の手を引っ張って歩き出した。
海岸を出て道路へ出ると、
波の音が少し遠くに遠ざかる。
「どこらへん?家」
【ライオン山の近く】
私がそう答えると、
カイトは目を丸めて驚いた様子を見せた。
なに?何か問題でも・・・?
もしかしてライオン山が通じないとか?
どう説明しようかなぁ・・。
そんなことを思っていると、
いきなりカイトが笑い出した。
「うっそ。マジで言ってんの?
俺のじいちゃん家の近くなん?」
【じいちゃん?】
「俺のじいちゃんがそこらへんに住んでんだ。
そんなら話が早い。さっさと帰るぞ~」
カイトが手を引く。
だけど急に、私は我に返った。
【手、触らないで】
「・・・ああ、わりぃ。ごめんな」
冷たいかな?
よく知りもしない女をこんなに心配してくれてるのに、
触らないでなんて、嫌なやつかな?
さっきまでの安心感が消えちゃったみたい。
私の中で、今のカイトは初めて会った時と一緒。
カイトの優しさに、幻影を見るところだった。
どことなく、カイトは彼に似てる。
カイトの方が全然チャラいんだけど。
どこか、似てる。
話し方とか、背の高さとか、優しさとか。
だから怖い。
この人も、あんな声で、あんな口調で。
いつか私を見放すんだろうなって。
同じ苦しさを味わいたくないの。
あの時の感覚なんて、忘れたいの。


