恋より先に愛を知る




どれくらいの時間が経ったんだろう。


日はもう沈みかけていて、
空の色もオレンジ色に変わっていた。


波打ち際まで裸足でぺタぺタと進むと、
波が押し寄せてきては逃げるように後退する。


引けばまた手前までゆっくりと進み、また逃げる。


ぼうっとただそれだけを繰り返す私の後ろで、
カイトはじっと座り込んでいた。



「っしゃ、できた!」


後ろから声がして、
私はカイトの方を振り返った。


カイトが私の傍まで駆け寄る。


目の前まで来ると、カイトは私の首に手を回した。





微かに香る、Philip Morrisの匂い。





聞こえるのは、静かな波の音。





見えるのは、夕焼けに染まるYシャツ。




びっくりして思わず目を瞑った私に、
カイトはゆっくりと口を開いた。








「俺が、怖い?」



その声に、体が反応して固まる。



今までのハチャメチャでしつこい
カイトの声とは違う、柔らかい声。



その声と共にカチャっと金属の音が聞こえた。




「目、開けて」


言われるがままゆっくりと目を開けると、
首もとにはあのリングがさがっていた。


「それ、大事にしろよ。
それがあれば、アンタは無敵だろう?」




“なんで・・・”



私がそれを手に取ると、
その私の手をふっとカイトの手が包んだ。



「怖いなら無理に触らないし、近付かない。
だけど心配なんだよ。アンタのこと」



私の手は、不思議と震えてはいなかった。



ただ溢れるのは、涙だけ。


必死に泣かないように唇を噛み締める私の頭を
カイトは一度だけ撫でると、


私の隣にゆっくりと腰をおろした。