「あかね?」
砂に埋もれたそれを拾い上げる。
黒く、銀色に光るそれは
私の記憶を色濃く映し出した。
『あのさ、イライラするんだよね』
どうしても悪い言葉しか思い出せないよ。
どうしたって、
悲しい思い出のほうが残るんだよ。
苦しい。
本当はこれを見るたびに苦しかった。
無機質なそれはもう、
対ではなくなってしまったことを
はっきりと認識させるみたいで。
私はそれを高く振り上げて海辺に向けた。
震える手が、強く力を持つ。
こんなもの、
捨てれば良かったんだ。
そうしたら、
思い出さなくて済んだもの。
吹っ切れるように、
努められたもの。
私の手から消えてしまえば・・・っ!!
「おい、やめろ!」
私の振り上げられた手は
カイトによって止められた。
離そうとしていたリングは、
カイトがしっかりと受け止めていた。
ガタガタと小さく震える私の手は、
カイトの手にしっかりと包まれていた。
どうして?
なんで止めちゃったの?
カイトには、関係ないのに。
「何でそんなことすんだよ。
大事なんだろ?」
私は目をぎゅっと閉じて必死に首を振った。
大事だなんて言わないで。
そう思っちゃいけないんだから、言わないで。
「大事なモンなら、
ちゃんと大事に持ってればいいじゃん」
だめなんだよ。
対じゃなきゃ、
意味無いんだもん。
あの人も大事に思ってくれてなきゃ、
意味無いんだもん。
捨てようと思ったのに。
断ち切ろうと思ったのに。
止められてしまうのは凄く嫌なのに。
どうして涙が出るんだろう。
どうしてホッとした自分がいるんだろう。
それがまだこの手の中にあることを、
どうしてこんなにも喜ぶ自分がいるんだろう。


